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化学についてのFAQ
目 次
Q-1 環境ホルモンについては、どのようなことが問題となっているのですか。
Q-2 環境ホルモン問題を引き起こすと疑われている物質には、どのようなものがあるのでずか。
Q-3 日本は環境ホルモンと疑われている物質にどの程度汚染されているのですか。又、その汚染の程度は外国と比べるとどうですか。
Q-4 トリブチルスズ化合物(TBT)による汚染状況及び規制状況はどうなっていますか。
Q-5 英国の河川や多摩川の魚がメス化していると問題になっています。この問題についてどう考えますか。
| Q-1 環境ホルモンについては、どのようなことが問題となっているのですか。 |
| A |
(1)米国で出版された"Our Stolen Future(邦訳版:奪われし未来)"の主張に代表されますが、「環境中に放出されたDDTやPCB等のいわゆる残留性塩素化に代表される合成化学物質の中に生体が持つホルモンと類似の作用をするものがあり、これが野生生物やヒトの内分泌(ホルモン)作用を攪乱するため、野生生物に起こっている深刻な影響が人間にも及んでいる」と言う”説”を展開。基礎的かつ科学的研究の実施と早急な対策を講ずるよう、強く警告を発しています。
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(注記)
1)本問題は欧米では、内分泌攪乱問題(いわゆるエンドクリン問題)として知られているものですが、日本においては、昨年来、これが”環境ホルモン”問題と通称されており、混乱を避けるため、可能な限り環境ホルモン、環境ホルモン問題と言う用語で統一して記述しました。
なお、本資料は科学的解明の進展につれ、又、必要に応じ内容を見直し、正確な情報伝達に努めるべきものと考えています。
2)(社)日本化学工業協会の略称として「日化協」と記述しました。
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| Q-2 環境ホルモン問題を引き起こすと疑われている物質には、どんなものがあるのですか。 |
| A |
(1)「ホルモン」は、生殖系だけではなく、生体のあらゆる機能に関わるものなのですが、今、マスコミなどで「環境ホルモン」と言う時は、主に生殖に関係するものに焦点をあてることが多いようです。また、どの物質も同じ性質を持つかのような印象を与える話題提供が多いようです。現在、「環境ホルモン」として話題にされる物質のグループを大きく分類し、それぞれの特性を表1にまとめました。表1に掲げられた物質は、それぞれ特性が異なるため、これらをひとまとめにした扱いをすることは不適切です。又、同一グループ内の物質でも個別物質毎に議論されるべきと考えています。
(2)表1に示すように、ホルモン様作用をはじめ、環境残留桂、生物濃縮性、毒性の強さの程度は、物質のグループにより大きく異なります。また、製造(生成)される状況や、使用される形態も大きく異なります。ホルモン様作用により悪い影響がでるか否かは、その物質の作用の強さと、摂取量や環境中の濃度との関係で考える必要があります。
因みに、話題にあがっているノニルフェノール、ビスフェノールA、フタル酸エステルには、弱いが、ホルモン様作用があると研究者から指摘されています。しかし、この弱いホルモン様作用が、本当に有害なのか、もしそうならどの程度有害なのか等については、未だ、明確な答えはなく、定量的視点を含めた科学的な解明が必要です。現に、国際的にも、この認識に立った研究、議論が産業界も参画して行われています。
(3)以上のような、基礎的視点を抜きにした論調が一部のマスメディアで見受けられ、これが最近の世の中の混乱に拍車をかけていることは誠に残念なことです。日比協としては、今後とも、より正確な情報伝達に努めて参りたいと考えています。
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表1 「環境ホルモン」として話題になっている物質
PCB、DDT
ダイオキシン |
- PCB、DDTは環境残留性と生物濃縮性か極めて高く、毒性もあるので製造が禁止されている。
- ダイオキシンはそれに加えて極くわずかな量でも毒性を示すといわれ厳しい排出規制を受けている。
- 最近、これらの物質にホルモン様作用があるとして、この面でも問題視されるようになった。
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| トリブチルスズ化合物(TBT) |
- 極めて低濃度でも水生生物に毒性を示す。生物濃縮性も高い。
- 船底に生物(フジツボなど)が付着しないようにすることを目的として使用された。
- イボニシなどの生殖への影響があることがわかったので、現在、日本では使用されていない。
- この生殖への影響がホルモン様作用による可能性も指摘され注目を浴びている。
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女性ホルモン
合成女性ホルモン |
- 女性ホルモンは体内で生成する。合成女性ホルモンは経口避妊薬や更年期障害のホルモン補充療法剤として使用される。
- ホルモンとして働く物質であり、ホルモン作用は当然強い。
- 下水処理場の排水に存在する女性ホルモンによる環境への影響が懸念される。
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| 植物エストロゲン |
- 自然界に存在する女性ホルモン様作用をもつ物質である。
- 大豆などにも含まれ、食事由来でヒトは常に摂取している。
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| 農薬 |
- 現在使用されている農薬は、残留性、毒性については一定の評価は済んでいる。
- 幾つかのものは、ホルモン様作用の観点から懸念されている。
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ノニルフェノール
ビスフェノールA
フタル酸エステル |
- それぞれ主に界面活性剤原料、樹脂原料、樹脂の可塑剤として使用されている。
- 生物濃縮性は低い。毒性も弱い。
- 環境残留性については、化審法の試験条件では難分解のものがあるが、活性汚泥処理では分解除去される。
- ノニルフェノールとビスフエノールAの女性ホルモン様作用は女性ホルモンの1万分の1から10万分の1である。
- フタル酸エステルはラットを用いた試験では女性ホルモン様作用は認められていない。
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| Q-3 日本は環境ホルモンと疑われている物質にどの程度汚染されているのですか。又、その汚染の程度は外国と比べるとどうですか。 |
| A |
(1)ここでは、環境庁による継続釣なモニタリング結果のあるPCB、DDTの例をあげて説明します。これらの物質については、化審法により、製造および輪入が実質上禁止されています。環境庁のモニタリング結果によれば、魚類中の濃度は着実に改善されてきたことがわかります。(表2)
表2 日本の魚類中のPCB、DDT濃度の推移(単位:ppm)1)
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78-80年平均 |
81-85年平均 |
86-90年平均 |
91-95年平均 |
| PCB |
大阪湾(スズキ) |
0.68 |
0.70 |
0.31 |
0.34 |
| PCB |
東京湾(スズキ) |
0.35 |
0.28 |
0.19 |
0.28 |
| PCB |
瀬戸内海(スズキ) |
0.50 |
0.70 |
0.28 |
0.07 |
| PCB |
琵琶湖(ウグイ) |
0.07 |
0.05 |
0.04 |
0.04 |
| p,p'-DDT |
東京湾(スズキ) |
0.0036 |
0.0014 |
0.0020 |
0.0014 |
| p,p'-DDE |
東京湾(スズキ) |
0.034 |
0.017 |
0.013 |
0.026 |
| p,p'-DDT |
琵琶湖(ウグイ) |
<0.001 |
<0.001 |
<0.001 |
0.001 |
| p,p'-DDE |
琵琶湖(ウグイ) |
0.036 |
0.032 |
0.029 |
0.024 |
(2)日本人のPCB摂取については、そのほとんどが食事、特に魚介類からと言われています。国立医薬品食品衛生研究所の調査では、PCBの摂取量は1979年の3.1μg/人/日から1994年の0.9μg/人/日まで、着実に低下していることが示されています2)。
(3)外国との単純な比較は困難ですが、いくつかの報告からは、次のように考えられます。米国五大湖でとれるニジマス中のPCB濃度は現在でも約3pmですが3)、これは東京湾の魚の10倍、琵琶湖の魚の100倍近い濃度です。そのため、五大湖でとった魚は食べないほうがよいと指導されています。また、バルト海の魚は五大湖以上に汚染されている可能性があるようです4)。
なお、水中PCB濃度については、スコットランド沿岸で5-20ng/L、地中海北西沿岸で0.2−8.6ng/Lとの調査結果があり、日本通南部の0.1ng/L、大阪湾の0.5ng/Lと比べると高目の数値が出ています5)。
このように、断片的なテータからの推測ですが、世界的にも汚染の高い地域の課題は存在します。
(4)ダイオキシンについては、環境庁の環境モニタリング6)では、前年度までの調査結果と比較して大きく変化したとは認められないが、環境中から広範囲に検出されているため、今後とも引き続きその汚染状況の推移を追跡して監視していくことが必要である、としています。なお、発生源や環境中挙動などの汚染機構の解明に努めるほか、内分泌攪乱物質に係わる情報を集め、毒性関連知見の収集に努めることも必要としています。
(5)ビスフェノールAの濃度については1996年度の環境モニタリング結果が発表されています。それによれば、測定検体数148のうち検出限界(0.01ppb)以下が107、他は0.01-0.268ppbと低い値です7)。
(6)フタル酸エステルの濃度についても1996年度の環境モニタリング結果が発表されています。最も生産量の多いフタル酸ジ2-エチルヘキシルの場合、測定検体数33のうち29は測定限界(3.9ppb)以下で、他は4.3〜6.8ppbと低い値です7)。
(7)ノニルフェノールの濃度は、日本界面活性剤工業会が東京都内の多摩川及び江戸川で行った測定結果では0.2〜0.27ppbです。磯部らの報告では、多摩川で0.029〜0.058ppb、隅田川で0.071〜0.510ppb8)、また最近の報告では多摩川で0.05〜0.17ppb、隅田川で0.09〜1.08ppbとなっています9)。
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(出典)
1)環境庁「平成8年版 化学物質と環境」(1996).
2)五十嵐敦子ら、Bull. Natl. Inst. Health Sci.114, 43−47(1996).
3)若山茂樹「世界の湖沼保全」p82-85, p180-182実教出版(1995).
4)ディンズレイ著、山県登訳「環境汚染の化学」P183産業図書(1980).
5)村上彰男ら「海を死なせるな」P137 読売新聞社(1990).
6)JETOC情報A Vol.20, No.3(1998).
7)環境庁「平成9年度版 化学物質と環境」プレス発表(1998).
8)磯部ら、環境科学会での発表予稿集(1997年10月).
9)磯部ら、第33回本環境学会年回講演集、p17, 1998.
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| Q-4 トリブチルスズ化合物(TBT)による汚染状況及び規制状況はどうなっていますか。 |
| A |
(1)規制状況
(イ)日本においては、有機スズ化合物は化審法で第一種及び第二種特定化学物質に指定されており、その製造、輸入及び使用について制限を受けています。国内におけるTBT含有塗料の生産は1996年度末をもって全く行われていませんし、使用も全面的に中止しています。
(ロ)この結果、1996年度のTBTを含有する船舶塗料用の出荷はピーク時の2%に満たぬ約15トンにまで減少しており、環境庁の水質モニタリング結果も全国平均値で1990年の8.8ng/Lから1995年の時点で2.5ng/Lに低下しています1)。さらに、「規制の効果で、イボニシが復活してきた」という調査結果も報告されています2)。
一方、国際的には、欧米では船長25m以上の大型船では使用が認められていますし、日本以外の東アジア諸国では規制されてません。
(2)問題点と対応
(イ)TBTは自然界で分解されにくいため環境中濃度が速やかに低下しないこと、魚介類中のTBT濃度の低下もわずかであること、現在でもイボニシにインポセックスが生じていることから依然として問題であることは確かです。
(ロ)TBT含有塗料の生産も使用も行っていないのは日本だけですが、現在、運輸省が国際海事機構(IMO)の場で世界各国にTBT全廃を呼びかけており、世界中で近々TBT全廃の動きが進展するものと期待できます3)。
なお、日本では既に、スズを使用しない船底塗料を開発し、世界の新造船の約40%をこの塗料で塗装しており、今後、世界的規模でスズ塗料の全廃を進めて行く上で、日本の開発した技術が大きく貢献できると考えています。
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(出典)
1)環境庁「平成8年版 化学物質と環境」(1996).
2)水口憲哉 平成10年度日本水産学会春季大会講演要旨集 p.140-141(1998).
3)Endocrine/Estrogen Letter April 7(1998).
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| Q-5 英国の河川や多摩川の魚がメス化していると問題になっています。この問題についてどう考えますか。 |
| A |
(1)英国での状況
(イ)英国で下水処理施設の排水溝の下流で魚のメス化が生じていると問題になっています。初めは経口避妊薬に使われる合成エストロゲンであるエチニルエストラジオールと羊毛洗浄に便われる界面活性剤の分解生成物であるノニルフェノール(NP)が原因ではないかと疑われました。確かにテレビで放映されるエア川の例ではNPの濃度が最高180ppbもあったこと1)、魚に影響を与えるNPの濃度は10ppb程度以上であること2-5),からNPの関与が疑われました。
(ロ)しかし、その後の英国環境庁による調査の結果、全国的に見れば、ヒトの女性の尿に含まれる女性ホルモンそのものが主たる原因である可能桂が強く示唆されています6-7)。
(2)多摩川での問題
(イ)多摩川は、川の水量に占める家庭下水の比率が高いことから、女性ホルモンそのものが原因である可能性が高いのではないかと考えられます。
(ロ)NPが原因であるとの疑いが一部には報道されています。しかし、多摩川でのNPの濃度は、多摩川のコイ研究ゲループが測定した結果では0.029〜0.058ppbで、日本界面活性剤工業会が行った測定結果では0.2〜0.27ppbです。NPが魚に女性ホルモン様作用を与える震度は10ppb以上なので、問題ないものと考えています。
(ハ)いずれにしても、多摩川のコイの「メス化」の問題は注目すべきであり、その因果関係だけでなく、広く生態に関する科学的背景テータに基づいた、正常か異常かの判断をも含めた解明がなされるべきと考えます。
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(出典)
1)若林明子、環境管理 32(7),849-861(1996).
2)S.Jobling, et al., Environ. Toxicol. Chem., 15, 194-202(1996).
3)J.Lech, L.Ren, et al. Fund. and Appl. Toxicol., 30, 229-232(1996).
4)L.Ren, J.Lech. et al., Chemico-Biol Interact 100, 67-76(1996).
5)M.A.Gray, et al., Environ. Toxicol. Chem., 16(5),1082-1086(1997).
6)UK Envionment Agency, R&D Technical Summary P38, November(1996).
7)Science 274, p1837, Dec.13(1996).
8)磯部文彦ら、環境科学会での発表予稿集(1997年10月).
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