日化協 アニュアルレポート2013
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事故の共通点と課題を抽出し、「保安事故防止ガイドライン」を作成 保安防災は化学産業にとって最重要課題ですが、この2年間、化学プラントで深刻な事故が発生しています。日本化学工業協会(日化協)は、重大事故を二度と起こさないための具体的な取組みとして「保安事故防止ガイドライン(初版)」を取りまとめました。 ガイドラインの策定にあたって重視したのは、重大事故から共通点を抽出し、化学プラントの共通課題として可視化し、現場や組織の改善に生かして頂くということでした。学識経験者を含めた化学産業界の専門家集団と、石油化学工業協会、化成品工業協会、石油連盟が共同で事故を分析した結果、3つの共通点が抽出されました。一つは、非定常作業における判断ミスや異常の兆候を見逃したことが事故の入口となっていること、二つ目は化学プラントに特有な異常反応が絡んでいること、そして三つ目は異常反応の発生に気付くのが遅れたこと、もしくは気付くためのツールが現場に十分ではなかったということです。これら3つを、重大事故を起こさないために絶対に外してはならない重要なポイントとして、ガイドラインを作成しました。 今回分析した重大事故はいずれも大規模プラントで発生したものですが、広い視野から共通点を抽出することで、中小規模のプラントでも起こり得るという可能性に気付いてもらうこともできると考えました。現場のコミュニケーションを深め、組織を改善する 今回作成したのは単なるガイドラインではなく、現場で使って頂くことに力点をおいて作成しています。そのための仕掛けとして設問形式を採用しました。プラントにはオペレーターを始め、生産技術・設備管理担当の技術者、管理職、客観的に現場をサポートする環境安全部門等、さまざまな立場の人が係わっています。保安防災のためには、全ての人が主体的に係わり、お互いに協力し合える体制を構築することが不可欠です。ガイドラインの設問は、現場だけに向けたものではありません。現場の人間が「はい、そこは大丈夫です」と答えても、環境安全担当者や生産技術担当のスタッフが「それは、具体的にどこまでできているのですか、教育は十分行っていますか」といった議論ができるようにしています。 ガイドラインは、現場だけでなく、組織全体で利用して頂きたいと考えています。事故の分析においては、特定の原因をあぶり出すことだけではなく、その背景にあるものを明らかにすることも重視しました。これにより、事故の発生原因は、実は人の判断ミスよりも、組織の問題であることも浮かびあがって春山 豊一般社団法人 日本化学工業協会 常務理事 環境安全部長きました。保安防災の仕組みは、個人の判断に頼るだけではなく、組織がつくるものです。組織に欠けているものがあると事故の芽が生まれ、それに気付かないことで、事故につながる事象をつぶせず、事故の発生に至るわけです。現場と管理者がコミュニケーションを深め、一体となって取り組むことで、事故の入口を塞ぐことが可能になります。ガイドラインを利用することで、「組織の改善への気付き」にもつなげて頂きたいと考えています。 2013年4月にガイドラインの初版を発行しましたが、単に発行しただけでなく、実際に使って頂くために、ガイドラインの説明会を開催しています。あえて初版としたのは、利用結果のフィードバックを受け、より充実した内容にレベルアップし、さらなる改善につながる内容にしていきたいと考えているためです。ベストプラクティスを共有し、人をつくる 日化協は37年間にわたって、無事故無災害現場の安全表彰を行ってきましたが、2013年9月にベストプラクティスを集めた事例集を発行しました。ガイドラインは、事故という負の遺産から生まれたものですが、現場の素晴らしい活動を化学産業全体で共有し、プラスの側面を伸ばすことによって保安防災は化学プラントの基礎体力。現場が誇りと自信を見出せるよう支援していきます。保安事故防止ガイドラインの活用から、ベストプラクティス(好事例)の共有、そして、人づくりまで。重大事故を繰り返さないための日化協の取組みを紹介します。13 日化協アニュアルレポート2013保安防災の取組みCLOSE UP 2012

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