一般社団法人日本化学工業協会(住所:東京都中央区、会長:福田 信夫(三菱ケミカル㈱取締役相談役)、以下「日化協」)は、このほどLRI(Long-range Research Initiative: 化学物質が人の健康や環境に及ぼす影響に関する研究の長期的支援活動)の第12期研究課題として新たに2件を決定しました。
2024年度は、新たに設定された6つの研究テーマに対する研究依頼書による募集を行い、全27件の応募の中から2件を採択しました。前年度から継続となる研究課題10件とあわせ、第12期のLRIの委託研究課題数は12件となります。新規の研究課題は3月から委託研究を開始しました。
今回、新たに採択した研究課題は以下の2件です。
<新たに採択された研究課題1>
●研究テーマ: 新しい特性を持つ化学物質の安全性評価
「プラスチック資源循環に資するリスクベースの再生プラスチック等級の設定とその適用に関する検討」
代表研究者:小野 恭子
産業技術総合研究所・エネルギー・環境領域 安全科学研究部門
社会とLCA研究グループ 研究グループ長
【概要】
現在、プラスチックの資源循環と汚染防止といった観点から、プラスチックリサイクルの促進の重要性が高まっている。一方で、再生プラスチックは、使用済みのプラスチックや工程からの端材など多様な廃プラスチックを原料として作られるため、含有する化学物質を適切にリスク評価することは容易ではない。しかし、そのようなリスクが適切に評価・管理されなければ、プラスチックの資源循環は限定的なものにとどまる恐れが高い。再生プラスチック使用製品が不必要に忌避されたり、過剰な安全性への要求から一部のプラスチックしか再生利用されないといった事態が生じたりする可能性があるからである。
本研究は、プラスチックのリサイクル・資源循環のサプライチェーンへのリスク評価・管理の実装に資する、廃プラスチックおよび再生プラスチックに関するリスクベースの等級設定の考え方を開発することを目的とするものである。ここでは、再生プラスチックに含まれる化学物質のリスク評価の枠組みを補完する形で、再生プラスチックのリスクベース等級判定の方法についての考え方を開発し、再生プラスチックおよび回収廃プラスチックについて等級設定を試行的に行う。
<新たに採択された研究課題2>
●研究テーマ:規制利用における課題を解決するための評価法の開発
「ヒトTh2細胞からのIL-4産生を指標に呼吸器感作性を評価する共培養系の開発」
代表研究者:善本 隆之
東京医科大学 医学総合研究所 免疫制御研究部門 教授
【概要】
化学物質は、ハプテンとして生体内の蛋白に結合し、免疫寛容の破綻により皮膚や呼吸器アレルギーを誘発する可能性がある。特に、呼吸器アレルギーは、即時型の反応で喘息のように重篤になる場合やアナフィラキシーショックのように死に至る場合もあり、皮膚アレルギーとの危機管理体制が大きく異なるにも関わらず、両者を識別する方法は未だ確立されていない。それゆえ、今日、あらかじめ呼吸器感作性を予測する動物実験代替試験法の開発が急務とされている。我々は、以前に、ヒト気道上皮細胞株と末梢血単球由来樹状細胞(DC)のDC共培養系を構築し(Front Immunol. 2017)、最近、さらにDCとして末梢血単球由来細胞株(CD14-ML)を用いたDC共培養系に、末梢血由来アロジェニックCD4+T細胞を加えた2ステップDC/T細胞共培養系を構築し、T細胞でのIL-4 mRNA発現増強を指標に両者の識別が可能であることを見出した(ALTEX 2023)。そこで、本研究では、この系の汎用性を改善し、Th2細胞株を用いELISAにより測定可能なIL-4産生増強を指標に皮膚と呼吸器感作性の識別が可能な2ステップDC/T細胞共培養系を開発し、OECD※のテストガイドライン化を目指す。
※Organisation for Economic Co-operation and Development : 経済協力開発機構
<LRIについて>
LRIは、国際化学工業協会協議会(ICCA)に加盟している欧州化学工業連盟、米国化学工業協会および日化協の3つの団体によって1999年から運営されているグローバルプログラムです。社会のニーズへの対応や業界が抱える喫緊の課題解決に重点を置いて研究支援を行っています。
以 上