一般社団法人 日本化学工業協会(住所:東京都中央区、会長:岩田圭一(住友化学㈱代表取締役会長)、以下「日化協」)は、研究の奨励および研究者の育成の一環として、“化学物質が人の健康や環境に与える影響”に関する優れた業績をあげた研究者を表彰するため、一般社団法人 日本毒性学会(理事長:広瀬明彦、以下「JSOT」)内に設立した日化協LRI賞※1の第11回目の受賞者を決定いたしました。

※1Long-range Research Initiative = 長期自主研究活動
[受賞者]
田口 恵子(たぐち けいこ)
東京大学大学院農学生命科学研究科・准教授
[テーマ]
環境化学物質の毒性研究から紐解かれた生体の防御システム
[受賞理由]
受賞者は、活性酸素種を過剰に産生する大気中微小粒子成分であるキノン化合物の解毒代謝経路に関する研究を起点として、解毒代謝酵素の発現を制御する転写因子NRF2の機能に興味を抱き、様々な知見を明らかにしています。具体的には、遺伝子改変動物を用いた研究により、環境ストレスに対するKEAP1-NRF2システムの重要性、特に、NRF2の活性制御におけるKEAP1の発現量の重要性を明らかにしました。さらに、がん細胞はこの生体防御システムを巧妙に利用しており、恒常的にNRF2が活性化すると、がん細胞の生存に有利に働くことを示しました。これにより、異物としての抗がん剤に抵抗性を示す「NRF2活性化がん」の概念が確立され、NRF2が新たながん治療標的分子として着目されるようになりました。このNRF2活性化がんを標的とした分子標的治療を目指して、キノン化合物を抗がん剤として利用する研究も進めております。
このように、受賞者は環境化学物質の毒性研究を起点に、ヒトの健康増進に貢献する研究を精力的に進めており、今後もますますの活躍が期待できる研究者です。
なお、授賞式は、7月2日(水)~7月4日(金)に沖縄コンベンションセンターで開催される第52回日本毒性学会学術年会にて執り行われます。
<ご参考>
LRIは、国際化学工業協会協議会(ICCA)に加盟している欧州化学工業連盟、米国化学工業協会および日化協の3つの団体によって1999年から運営されているグローバルプログラムで、化学物質の安全性の向上と不確実性の低減を目的として、“化学物質が人の健康や環境に与える影響”に関する研究を長期的に支援する自主活動です。日化協は、2000年からLRIを通じた研究支援を行っています。
今回の「日化協 LRI賞」は、LRIの認知拡大および理解促進を図るとともに、同分野の優れた若手の研究者および世界をリードするような新しい研究分野を発掘することを目指して2015年に設立されました。JSOTおよび日化協LRIウェブサイトで公募を行い、JSOT内学術委員会の厳正なる審査を経て、日化協LRI賞へ推薦された候補者を日化協が承認し、受賞者が決定されます。