地球温暖化問題への解決策を提供する化学産業としてのあるべき姿
全世界的に地球温暖化対策の議論が進む中、温室効果ガス(Greenhouse Gas:GHG)削減に向けた具体的行動が強く求められている。中期的にはパリ協定で各国が約束したGHG排出削減を従来の対策の一層の強化等により進めていくこととなると考えられるが、長期的には真に持続可能な地球規模での環境と経済のバランスを再確立することが求められており、その実現のためには従来の対策の延長ではない、革新的なイノベーションが必要である。「化学」は様々な物質、場合によっては環境や人にとって有害となり得る物質を有用な物質に変換することができる分野であり、そういった「化学」の潜在力を顕在化させることの出来る化学産業こそが、地球規模の課題解決に必要となるイノベーションの中核を担うべきであると考えられる。そこで、日化協技術委員会のもとに地球温暖化長期戦略検討WGを設置し、関係団体や有識者の参画もいただく中で2050年及びそれ以降へ向け、地球温暖化問題の解決策を提供し、持続可能な社会を構築するための化学産業のあるべき姿とその実現のための方策(長期戦略)を策定した。本取りまとめが、パリ協定において、日本が求められている長期戦略策定に活かされることを期待するものである。
(本文 “はじめに” から引用)
化学業界のCO2排出削減の取り組み
こうした状況に対応するため、化学業界では1997年度から2012年度まで経団連の「環境自主行動計画」に参画し、省エネルギーを推進し、CO2排出を抑制する活動を継続してきました。2013年度からは、経団連の「カーボンニュートラル行動計画(旧名:低炭素社会実行計画)」に参画し、(1) 国内事業活動からのCO2排出抑制、(2) 低炭素製品・技術の普及によるサプライチェーン全体でのCO2排出抑制を進める主体間連携の強化、(3) 日本の化学製品・プロセスの海外展開による国際貢献、(4) 中長期的な技術開発である革新的技術の開発の4本柱で地球温暖化対策を進めています。
さらに2023年度からは、2050年カーボンニュートラル実現に向けて目標を見直し、2022年度実績から運用を開始しています。新目標は、2050年カーボンニュートラルに向けて整合的かつ野心的な目標ですが、実装可能な先端技術BAT(Best Available Technology)をベースとした省エネ技術に加え、現在開発が進められている革新技術による排出削減によって、目標達成を目指します。
日化協は、会員および賛同企業とともに、CO2排出削減に向けたさまざまな取り組みを継続することで、目標の達成に貢献してまいります。
他の温室効果ガスの排出削減の取り組み
化学業界では2012年までにCO2の排出量削減のほかに、温室効果ガスである代替フロンガスの PFCs(パーフルオロカーボン:半導体産業の洗浄用途)、SF6(六フッ化硫黄:電気絶縁ガス等の用途)の排出削減にも取り組み大きな成果をあげてきました。2013年以降も気候変動枠組条約における追加ガスであるNF3(三フッ化窒素:シリコンウエハーのエッチング等の用途)を加えた「代替フロン3ガス」の製造時の排出削減活動を継続しています。
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化学製品のライフサイクル評価 carbon Life Cycle Analysis(cLCA)
CO2排出削減対策は、各国各地域によりその対策は異なり、日本における対策指針を立案する上には、日本の具体的な状況を把握し、その中で最も効率の良い施策を優先的に立案し推進する必要があります。日化協では、2020年を評価対象年として、対象年1年間に製造された製品をライフエンドまで使用した時のCO2排出削減貢献量を算定しました。算定対象として、再生可能エネルギー、省エネルギー、省資源、再生可能資源、N2O排出抑制の分野において国内で15事例(住宅用断熱材、太陽光発電材料、LED関連材料等)、世界で4事例(海水淡水化プラント材料、航空機材料等)を取り上げ分析しました。算定結果については、日本における施策立案の参考となることを期待し、2011年7月に発行した初版「国内における化学製品のライフサイクル評価」を改訂し、2014年3月に「国内および世界における化学製品のライフサイクル評価 carbon Life Cycle Analysis(cLCA)」と題する第3版の報告書に取りまとめて発行しました。(2021年12月に、2030年を評価対象年としたcLCA事例 第4版の報告書をまとめました。)分析の結果、国内で約1.2億トン、世界で約3.9億トンの排出削減に貢献するキーマテリアルであることがわかりました(なお、排出削減貢献量には、化学製品だけでなく他の原料、部材関連の製品分も含まれますが、現時点で他製品の貢献を定量化する手段を持ち合わせていないため、排出削減貢献量を構成製品毎に配分することは行っていません)。
この結果を見ると、グローバルな課題であるCO2排出削減を推進するためには、製造時におけるCO2排出削減といった部分最適の議論ではなく、製品のライフサイクルを十分に理解したうえで、全体最適の視点からの対策が重要であるといえます。今後、化学産業は、製造時の排出削減にとどまらず、ライフサイクル全体における化学技術・製品の活用による削減貢献を目指し、社会全体のCO2排出削減を推進して参ります。
また日化協ではcLCAの透明性、信頼性を確保するために、「CO2排出削減貢献量算定のガイドライン」の策定を行い、2012年2月に冊子を発行しました。その後WBCSD(World Business Council for Sustainable Development)の化学セクターとICCAが共同で上記ガイドラインをベースにグローバルガイドライン「主題:GHG排出削減貢献に対する意欲的な取り組み 副題:化学産業による比較分析をベースとしたバリューチェーンGHG排出削減貢献量の算定・報告ガイドライン」(以下、グルーバルガイドライン)を策定し、2013年10月に発行しました。このグローバルガイドラインは化学製品によって可能となるGHG排出削減貢献量を算定するための初めての国際的なガイドラインです。
グローバルガイドラインは、透明性・信頼性を確保した排出削減貢献量の評価・報告を実現する観点からは大変有用なものですが、解釈が難しい記述等があり、会員企業から具体的な事例への適用例も含めより理解容易な表現を要望されていました。そのため日化協では2015年3月に、このグローバルガイドラインの理解促進及び普及を目的に、グローバルガイドラインの補完集を刊行しました。補完集は、具体的な事例を基に、バリューチェーンにおけるレベルの定義、貢献製品の範囲や貢献度合いの定義、使用期間の設定方法や使用するデータの選び方、注意点等をわかりやすく解説しています。
グローバルガイドラインは、事例作成から得られた課題を反映し、2017年12月には改訂版が発行されました。また、コンサルタント会社Ecofysに委託したGHG排出削減貢献の調査報告書「Greenhouse gas emission reductions enabled by products from the chemical industry」が2017年3月に発行され、その概要をICCAが作成し2017年10月に発行しています。
日化協ウェブサイトでは、改訂グローバルガイドラインとGHG排出削減貢献の調査報告書概要の日本語版を公表しています。
2030年を評価対象年としたcLCA事例 第4版(2021年12月)
- 事例1 太陽光発電材料
- 事例2 低燃費タイヤ用材料
- 事例3 LED関連材料
- 事例4 樹脂窓
- 事例5 配管材料
- 事例6 濃縮型液体衣料用洗剤
- 事例7 低温鋼板洗浄剤
- 事例8 高耐久性マンション用材料
- 事例9 高耐久性塗料
- 事例10 飼料添加物
- 事例11 次世代自動車材料
- 事例12 100%バイオ由来ポリエステル(PET)
- 事例13 海水淡水化プラント材料(RO膜)
- 事例14 航空機用材料(炭素繊維複合材料)
第4版発行後の評価事例
以前の評価事例(評価対象年次:2020年)